書店が「雑貨を売る」理由:本屋の生存戦略とは?〜マーケティングと集客の視点で読み解く〜

はじめに

近年、多くの書店が本だけでなく雑貨を販売するようになっています。一昔前なら、本屋は本を売る場所というのが一般的な認識でした。しかし、今では文具やインテリア雑貨、食品、さらにはアパレルまで扱う書店も珍しくありません。

なぜ書店は雑貨を売るのでしょうか? これは単なる売上アップのための施策ではなく、マーケティングと集客の観点から見ると、書店業界が生き残るための戦略として非常に理にかなっています。本記事では、書店が雑貨販売を強化する理由をマーケティング視点から解説し、これからの本屋の生存戦略について考えていきます。

書店を取り巻く厳しい環境

まず、書店業界の現状を整理しておきましょう。書店が雑貨を売る背景には、業界全体の大きな変化があります。

1. 本の販売数の減少

日本出版販売(取次大手)のデータによると、日本の出版市場は1996年の約2.6兆円をピークに、現在では1兆円台にまで縮小しています。特に紙の本の売上は年々減少し続けており、書店にとっては厳しい状況です。

その原因として、以下の要素が挙げられます。

• 電子書籍の普及

スマートフォンやタブレットの普及により、電子書籍を利用する人が増えています。電子書籍は物理的なスペースを取らず、持ち運びも便利なため、紙の本を購入する人が減っているのです。

• ネット通販の台頭

AmazonをはじめとするECサイトの影響で、書店に足を運ばずとも簡単に本が手に入るようになりました。これにより、特に地方の書店は売上の減少に悩まされています。

2. 書店数の減少

売上の減少に伴い、書店そのものの数も減少しています。文化通信社のデータによると、1999年に約22,000店あった書店数は、2023年には約10,000店にまで減少しました。つまり、この20年で半数以上の書店が閉店したことになります。

こうした状況のなかで生き残るために、多くの書店が新たな戦略として雑貨販売を取り入れています。

書店が雑貨を売る3つのマーケティング戦略

書店が雑貨を販売する理由をマーケティングの視点で考えると、大きく3つの戦略が見えてきます。

1. 購買単価の向上(クロスセル戦略)

本の販売だけでは売上が頭打ちになるため、雑貨を販売することで「ついで買い」を促し、客単価を上げる戦略です。これはクロスセル(関連商品を一緒に購入してもらう施策)の一種です。

例えば、以下のような組み合わせが考えられます。

• 小説と、その世界観に関連するオリジナルグッズ(ポストカード、しおり、マグカップなど)

• 料理本と、高品質なキッチン用品

• ビジネス書と、おしゃれな手帳や文房具

顧客が本を購入する際に、関連する雑貨が目に入れば「せっかくだから買おう」という心理が働きます。このようにして、1回の来店あたりの売上を増やすことができるのです。

2. 書店の「目的地化」(ブランド戦略)

単に本を売るだけでなく、雑貨を含めたライフスタイル提案を行うことで、書店を「目的地」にする戦略です。

従来の書店は「本を探しに行く場所」でしたが、雑貨を扱うことで「本を買う予定がなくても楽しめる場所」に変化します。これは、ブランド戦略の一環として、書店の価値を再定義することにつながります。

例えば、代官山の「蔦屋書店」や、「無印良品の本屋」は、ただの書店ではなく、トレンド感のあるライフスタイル空間として設計されています。このような書店は、本を買わなくても「行ってみたい」と思わせる強い魅力を持っています。

3. SNSと相性の良い商品で拡散力を高める

雑貨は本と比べて視覚的に魅力を伝えやすく、SNSでの拡散が期待できます。特に「映える」雑貨を取り扱うことで、ユーザーがSNSに投稿しやすくなり、自然な形で書店の集客につながります。

例えば、以下のような雑貨はSNSで話題になりやすいです。

• 限定デザインのノートやステーショナリー

• 書店オリジナルのトートバッグやグッズ

• 小説の世界観を再現したアロマキャンドルやインテリア雑貨

ユーザーが「この雑貨、かわいい!」とSNSに投稿すれば、それが新たな集客につながるのです。

書店の未来:雑貨販売は本当に成功するのか?

ここまで、書店が雑貨を販売する理由とそのマーケティング戦略について解説しましたが、実際にこの戦略は成功しているのでしょうか?

成功事例

いくつかの書店は、雑貨販売を強化することで成功を収めています。

1. 蔦屋書店(TSUTAYA)

「ライフスタイルを提案する書店」として、雑貨やカフェを併設し、滞在時間を延ばす工夫をしています。結果的に、単なる書店ではなく、文化的な空間としての価値を確立しました。

2. ジュンク堂×ロフト

札幌のジュンク堂ではロフトと提携し、書店と雑貨店を融合させた店舗を展開。相互送客の効果もあり、来店者数の増加につながっています。

課題とリスク

一方で、雑貨販売を取り入れてもうまくいかないケースもあります。

• 雑貨の仕入れコストがかかるため、利益率が低い場合がある

• 雑貨に力を入れすぎると「本屋らしさ」が失われ、コアな読者層が離れる可能性がある

• 競合との差別化が難しくなり、単なる「雑貨店」になってしまうリスクがある

成功には、書店のコンセプトを明確にし、ターゲット層に適した雑貨を選ぶことが重要です。

まとめ

書店が雑貨を売るのは、単なる売上増加のためではなく、「購買単価の向上」「書店の目的地化」「SNS拡散の活用」といったマーケティング戦略が背景にあります。

本屋の未来は、単なる「本を売る場所」ではなく、「本と雑貨を通じて新しい価値を提供する場所」として進化していくことで、より多くの人に愛される存在になっていくでしょう。